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タイトル:楽劇『ワルキューレ』第一幕 大植英次指揮ハノーファーNDRフィル
投稿者 :kita
投稿日時:2006/06/12(月) 20:28:28
ブルックナーの演奏を「絵画的」と書いたけど、オペラでもそれはかわらず、
大植の指揮は丁寧で細やかな、お客さんに親切なものでした。
でも、バイロイトでは通用しないでしょう。イタリアの歌劇場ならばやっていけるかもしれません。

さて、
歌劇はストーリーが明示されてる、という点が交響曲などの純音楽とは違うところですが、
それは団体ツアーと個人旅行の違いに例えることができるかもしれません。

団体旅行は筋立てに沿って全員が同じ名所を回るぶん、どこかしらでお客さんを自由にさせ、
それぞれが想いを馳せる余地を作ってやることが必要です。
それがあってはじめて、お客さんそれぞれが「自分だけの旅行」をしたことになるのです。
そこらへんの扱いの切り替えはまだ、今の大植ではできません。
まだ、というか、将来もそっちの方向へは行かないかもしれません。


下手な映画よりも鮮明に場面を想像できる、というのは大植の美点です。
だから聴いているほうは楽でした。
字幕なしにもかかわらず、対訳を見る必要をあまり感じないほど。
ベテラン添乗員が案内するツアーのようなものです。
しかしそれは「過保護」…手取り足取り、聴き手をガイドする…と表裏一体です。

たとえば、
「ウェルゼ!」の場面で歌手に思い切り歌わせてサービスしましたが、
でも、この場面は聴き手それぞれが、ここまで語られたことを下敷きに思いを致すところです。
ワタクシ的には「オレの楽しみを奪わないでよ」と言いたくなった個所でした。
いや、結果的に解釈は同じなのですが、添乗員の説明的にお膳立てされてる、ってえのが
拘束されているようで苦痛です(苦笑)。ここは団体行動ではなく、自由行動の場面です(笑)。



この場面はもう一つ文句が(笑)あって、
ここまで物語重視で進んできたところに突然、歌手のテクニック披露が入ってしまうことの違和感
がありました。
映画の山場でいきなり、俳優の経歴や今後の予定をテロップで流すようなものです。
(いや、実際、ここでパンフレットの歌手略歴に目を移した人も多いと思います)
特に「指環」はライトモチーフという手法を導入するくらい、物語を生命線とする作品で、
これを切断する構想は馴染まない、と思いました。
(ワーグナーのオペラは、程度の差こそあれ、どれもそうなのかもしれません)

もちろん演出レスの演奏会形式ということを計算してのことでしょうが、
場のノリを接着するために無理やりストーリーをこじつけたイタリアオペラならともかく、
登場人物の心理遷移をじっくり読み込んで演奏に臨むバイロイトのお客さんにこれをやったら、
「坊や、もうすこし客の扱いを勉強してらっしゃい」と言われそうですね。

オーケストラの良さが出たのは『ジークフリート牧歌』。
管楽器のアンサンブルが妙に一体感があってよかったです。これは聞き惚れたなあ…

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