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〉 〉「マニア」と「オタク」の差異はどこにあるのか? 〉 〉こんな問に悩んでいる人にお薦めしたいのが、斎藤環「戦闘美少女の精神分析」で 〉ある。この本の存在を知ったのは、6月11日付け朝日新聞の書評欄においてであ 〉る。私が着目したのは、題名と著者の経歴とである。 〉 〉著者は1961年生まれの精神科医。評論家でもなく、また<a href="http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/">岡田斗司夫氏</a>のようにオタ 〉ク世界のスポークスマンでもない。またフェミニズム論者でも、社会学者でもない。 〉果たして、精神科医の手になる分析とはどのようなものになるのかに、私は興味を 〉そそられたのである。 〉 〉本書を読みすすめるうちに、この書物が確かに精神科医の手によるものであること 〉と、精神科医であるがゆえに著すことのできたものであったと理解するに至った。 〉本書は全6章構成をとっているが、著者の経歴が端的に現れているのが第1章と第 〉2章である。即ち、いくつかの症例をつぶさに観察することから、現象を理解しよ 〉うとする姿勢は、まさに精神科医の活動ではないか。第2章「『おたく』からの手 〉紙」が症例に、第1章「『おたく』の精神病理」が分析に該当する。 〉 〉本書の最大の功績は、優秀な症例−−つまり、おたく−−に恵まれたうえに、それ 〉を観察する著者が中立的な視点を保って科学的な検討に終始していることである。 〉芸能番組の低俗な理解や、フェミニズム論者のような「これだから日本のオトコは 〉だめなのよ!」といった短絡思考などは、本書には微塵もみられない。 〉 〉こうした著者の視点は、著者自身が有する「おたく的」能力を駆使していることに 〉より生まれているものだと考えられる。本書の著者は、自身はおたくではないと言 〉っているのだが、私のみるところかなりの強者である。 〉 〉本書の第5章は「戦闘美少女の系譜」と題されている。本書の題名にも付されてい 〉る「戦闘美少女」なる語句は著者独自の視点によって創出されたものであり、おた 〉く文化の根幹を支える構造であると理解されている。その企図するところは本書を 〉読んでみてのお楽しみにしておくが、圧巻なのはそのための原資料の分量である。 〉なんと86枚もの図版を提示しながら、1958年以降に登場した作品が「症例」とし 〉て分析にかけられているのである。しかも、特撮ものとアニメを同列に扱いながら。 〉とある箇所でポロっと漏らしているのだが、著者は実写の特撮ものがお気に入りの 〉ようである。それにしたって「美少女仮面ポワトリン」と「ふしぎなメルモ」を同 〉じ軸の上で把握する試みを、これまで誰かしてきたことがあったであろうか? 著 〉者の視覚はマニアとしてのものではなく、おたくのそれであるとの賛辞を送るべき 〉であろう。 〉 〉そんな著者であっても、決して「おたくである」と自認はしない。なるほど、確か 〉に本書が提示する「おたくの必要条件・十分条件」に当てはめてみれば、そのよう 〉な帰結が導かれる。本書が示す「おたくであるか?(y/n)」の分水嶺とは、 〉<font size=+2>「萌えられるか」</font>だという。 〉 〉そこ、笑わないよーに(笑) 〉 〉著者によれば「萌え」とは、おたくにしか為しえない特殊能力の行使だというので 〉ある。「萌え」が意味するところは……あまりに鋭利で、ちょっとここには書けま 〉せん。余談ですが、『ぷに萌え』『けもの萌え』な私は、身につまされるものがあ 〉る(わかりやすいところで、おキツネさま萌え)。 〉 〉しかしながら解消されない疑問がある。まず、「多重見当識」と「セクシュアリテ 〉ィ」との関係が現状分析にあたる第1章で示されておりながら、戦闘美少女の生成 〉過程に関わる第6章では必ずしも有効に機能していないのではないかという疑念で 〉ある。 〉次に、画家ヘンリー・ダーガー(第3章)との出逢いによって本書の構想が生まれ 〉たとされているが、それはおたく分析にとってどれだけの意味があったのか。むし 〉ろ、ダーガーに引きつけようとして「ファリック・ガールズ」という概念を持ち出 〉したがために、セクシュアリティばかりが際だつことになってしまったのではある 〉まいか。 〉 〉この疑問は、次のような質問によって具体化することができると思う。「宇宙戦艦 〉ヤマトおたくは存在しうるのか?」 〉私の理解するところでは、本書の立場では「ガンダムおたく」ならばまだしも、 〉「ヤマトおたく」の存在はかなり困難なのではなかろうか。確かに戦闘美少女が登 〉場するけれども、それだけじゃないでしょ? という気がしてならない。 〉 〉第1章および第2章が明晰さを持っているのに対し、第6章はかなり難解で一読し 〉ただけでは理解が困難であった。「戦闘美少女の生成」と「おたくの生成」とを結 〉ぶものがどこかで途切れているかのように思えるのである。 〉 〉決して安いとはいえないが、示唆に富む書物である。おたくが内側から語るのでも 〉なく、世俗人が外側から奇異のまなざしで眺めたものでもない。精神科医として外 〉から分析をしておきながら、戦闘美少女の系譜を内からの視点で嬉々として語る、 〉その「多重見当識」が本書の魅力といえるだろう。以後、オタクについて論じよう 〉とする場合に、必ず引用すべき書物の1つとして掲げられるであろうことは間違い 〉ない。 〉 〉さいとうたまき「せんとうびしょうじょのせいしんぶんせき」 〉太田出版刊、2000年4月、2100円 〉ISBN4-87233-513-9
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